はじめに

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はじめに

繁桝算男(テスト規準作成委員会委員長)

テストは今日、さまざまな形で現代社会生活に浸透しており、個々人の人生に重要な意味を持つものとなっている。したがってテストに関係する人はすべてそれを使用する際の社会的意義を自覚し、それがもたらす結果について責任を持たなければならない。

人の意思決定や行為の判断は多角的に集められた多様な要素を比較総合してなされるものであるが、その中にあってテストが提供する情報は一つの重要な役割を担っている。しかし、テストがもたらす情報は完全なものではなく、作成された条件によっても変わるものである。不完全な情報から常に正しい決定を望むことはできず、そのためテスト情報を利用する者、またその情報を提供する者双方に不幸な結果を生む危険がある。テストにかかわる人はすべて、それぞれの立場において、そうした危険をできるだけ減らすように努力し、テストの扱いはそれだけに過度に依拠することなく常に慎重でなければならない。

テストを扱う先進諸国諸団体では、テスト関係者のためのテスト規準がすでに用意されている。

わが国でも、個人に対する人権意識の高まりと急速な高度情報化社会の進展にともない、成熟した社会の証として、テストを扱う専門家集団が共通理解の拠り所となるようなテスト規準の必要性が痛感された。そこで、日本テスト学会は、テスト規準の必要性に鑑み、日本のテスト慣行に即したテスト規準を作成した。このテスト規準は、テストの開発、実施、利用、記録、評価などのテストに関する手続きにおける指針を示す51個の基本条項から成っている。

基本条項の作成にあたっては、抽象的概念的な目標提示ではなく、しかし 細かい技術的手順や数値目標の提示でもなく、多くのテスト関係者にとって具体的な行動目標となり、テストにかかわる諸活動を点検するための機能をもつものであることを基本とした。そのため専門用語はできる限り避け、平易な用語で説明することを心がけた。やむを得ず専門用語を用いる場合には簡潔な説明を添えた。そして、基本条項では十分な具体性を書く場合もあることを考慮し、基本条項のそれぞれについて解説をしている。すなわち、解説では、より細かい理論的解釈や、実際の個々の場面で必要になる手続的細目や具体的方法についての専門的助言などをまとめている。この基本条項とその解説は、日本テスト学会理事会の承認を得てここに公表するものである。(テスト規準は、テストを適用する場面で生じる実践的立場からの疑問に答えるQ and Aや、基本用語の解説を新たに付け加え、金子書房から出版されている。書名は、「テストスタンダード(日本のテストの将来に向けて)」である。)

ここにあげられた基本条項の項目は、特定の種類のテストや利用場面に限定されるものではなく、どのようなテストにおいても考慮の対象にあげられる場面を想定して作成された。基本方針として、強調された視点をあげるとすれば、それはテスト活動が持つべき条件としての手続の公正性、透明性、そしてその道具として使われるテストの品質保証であり、それを裏付けるためのデータ(証拠)の開示と受検者に対する説明責任である。

これらは、テスト関係者が受検者に対して信頼を得るための必要条件であるばかりでなく、同時にそれは受検者にも受検者としての責任と権利義務を認めさせるものである。テストは受検者との相互信頼関係によって初めて成立つ社会活動で、公序の維持と個の福祉に役立つことが究極の目標でなければならないからである。そのためにテストが持つべき必要な条項がここに盛りこまれている。

もとよりその規準は永劫不変なものでなく、社会の変遷と時代の進歩に伴って、見直しと改訂が繰り返されなければならないものである。これはそのための最初の試みである。