パブリックコメント
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日本テスト学会 会員の皆様
文部科学省の「大学入学共通テスト(仮称)」実施方針(案)に係るパブリックコメントによる意見集約に関し、理事会で審議した結果、テストを専門とする学会としての意見を表明することが妥当であると結論し、日本テスト学会として理事長名で以下の意見を提出いたしました。
「大学入学共通テスト(仮称)実施方針(案)」に対する意見
――「実施方針」確定の前に真に実証的・専門的な検討を――
平成29年6月13日
日本テスト学会
理事長 繁桝算男
平成29年5月16日に公表された「大学入学共通テスト(仮称)実施方針(案)」では、記述式問題を導入することと、共通テストの英語試験を廃止し民間の資格・検定試験に移行することの2つが大きな特徴となっている。
本意見書は、これら2点について個別の意見を表明するものではなく、「実施方針」を確定するまでに、真に実証的・専門的な検討を行うことを強く要請することを目的としている。
高大接続システム改革会議「最終報告」においては、たとえば記述式問題の導入について、「作問・採点・実施方法等について乗り越えるべき課題も存在している」とし、そのため今後、「実証的・専門的な検討を丁寧に進める」(p.56)とされている。では、その後、具体的にどのような実証的・専門的な検討がなされただろうか。
また、英語については、四技能の評価を推進する観点から、「民間の資格・検定試験の知見の積極的な活用の在り方なども含め検討する必要がある」(p.58)とされているが、現行の大学入試センター試験の英語を廃止するという案に至るまでに、センター試験の英語についてどのような実証的・専門的な検討がなされただろうか。
「実証的・専門的な検討」のうち、「実証的」ということについては、記述式問題に関して、「実施方針(案)」の公表と同時に、2回のモニター調査の結果が報告された。しかし、これらのモニター調査は対象者数が約400名(第1回)および約600名(第2回)であり、それぞれ、想定される共通テスト受験者数の約千分の一というごく小規模のものである。また、対象者の属性も明らかでなく、分析も大まかなものにとどまっている。幸い、平成29年11月には5万人規模(想定される共通テスト受験者数の約十分の一)のプレテストを行うとされているので、その実施計画および分析計画を適切に組み立てることで、より実証的な判断材料が提供されることが期待される。「実施方針」の確定は、少なくともそのプレテストの結果をふまえてでなければならない。
英語に関しては、資格・検定試験のうち、試験内容・実施体制が入学者選抜に活用する上で必要な水準及び要件を満たしているものを大学入試センターが認定するという案になっている。これについては日本言語テスト学会の提言にもあるように、それぞれの試験の採点基準や採点方法など詳細な情報公開が必要であり、また認定の手順も透明性の高いものでなければならない。このようにして認定される試験が少なくとも1つあるのかないのか、あるいは2つ以上あるのかによって、その後の展開は大きく変わってくる。したがって、「実施方針」の確定は、少なくともその認定の結果をふまえてでなければならない。
「実証的・専門的な検討」のうち、「専門的」ということについては、現在の「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」検討・準備グループには、9名の、それぞれの分野の専門家が含まれているものの、肝心のテストの専門家が含まれていない。日本テスト学会の会員を初め、日本には多くのテスト専門家がいる。そのリソースをぜひ有効に活用して、真に実証的・専門的な検討を進めていただきたい。
「大学入学共通テスト(仮称)実施方針(案)」が5月16日に公表された後、大学・高等学校等の意見を聞き、すみやかに実施方針として確定するとされており、6月にも実施方針を確定するような報道もされている。しかし、ここまで述べてきたことから、そのスケジュールで進めるのは到底無理である。想定される変化の大きさからも、期限ありきの拙速な方針決定は避け、真に実証的・専門的な検討をふまえて、より良い「実施方針」に結実するよう、努力を続けるべきである。
以上、ご報告いたします。