日本テスト学会誌 Vol.16 No.1 要旨
日本テスト学会誌 Vol.16 No.1
▶ 一般研究論文 | |
---|---|
多枝選択式問題作成ガイドラインの実証的検討 | |
坪田彩乃、石井秀宗 | |
名古屋大学 | |
項目作成ガイドラインについての研究は多くされているものの,各ガイドライン項目の影響の仕方や大きさ等については明らかにされていない部分が多い。また,受検者が項目のFlaw に気が付かないにもかかわらず,そのFlawによって正答率が変化するなどと項目特性が変化するとすれば,測定上問題がある。英語,数学,国語について,項目作成ガイドラインに準拠している項目と準拠していない項目を対にして計52 項目の多枝選択式問題を作成し,477 名の大学生にテストを実施して,正答率やFlaw に気付くかなどの調査を行った。その結果,受検者にFlawを指摘されないのにもかかわらず正答率が変化する項目が確認された。また,項目間に依存性が生じている項目や,選択枝に否定表現が含まれる項目では,ガイドラインに準拠する項目よりも準拠しない項目の方が正答率が低かった。さらに,こうした項目のFlawは正答率に影響するにもかかわらず,受検者は違和感を覚えないことが示された。項目の作成の仕方によっては,出題者の意図していない影響が項目特性に及ぶことが明らかにされた。 | |
キーワード:多枝選択式、項目作成ガイドライン、項目Flaw | |
▶ 一般研究論文 | |
思考力を測ろうとする多枝選択式問題の解答過程に関する調査に基づく実証分析 | |
荒井清佳 | |
大学入試センター | |
多枝選択式問題については,知識の有無だけでなく,思考力等を測ることが求められている。センター試験の問題の中には,思考力を問う問題も出題されていると評価されているが,解答者はそれらの問題を実際に思考力を用いて問題を解いているのであろうか。 本研究では,センター試験(世界史)の過去問のうち,思考力を測る問題として評価されている問題を用いて,問題がどのように解答されているのかを明らかにするために二つの調査を行った。[調査1]では,選択式のアンケート調査を行った。[調査2]では,実際の解答過程の記述を収集し分析した。[調査1]と[調査2]を通じて,思考力を測る問題として想定されている問題が,実際に想定通りに問題文やグラフの内容をもとに推論を重ねて解答されていることが示された。また,知識問題であっても「知識・理解による判断」だけではなく,「知識・理解に基づく推測」により解答されていることも示された。 |
|
キーワード:多枝選択式、思考力、解答過程、センター試験、世界史 | |
▶ 一般研究論文 | |
連続型の特性値をもつ補償型認知診断モデル | |
丹亮人、岡田謙介 | |
東京大学大学院教育学研究科 | |
認知診断モデルは, テスト回答者の認知的特性であるアトリビュートの修得について診断する統計モデルである. 従来型の認知診断モデルではこの特性値に二値離散変数を仮定するが, アトリビュートの修得状況は修得したか否かという二値よりも,修得の程度に対応する連続的なパラメタとして,よりよく表現でき,理解できる可能性がある. こうした考えに基づき,離散特性値の仮定を緩和して連続型の特性値を考える非補償モデルとして, アトリビュート間が独立である PINC モデルとアトリビュート間に関連をゆるす HO-PINC モデルが開発されている. 本研究では, この連続変数への緩和のアイディアを補償モデルに適用した,PIND モデルと HO-PIND モデルを提案する. 複数の条件におけるシミュレーションによるパラメタリカバリ性能を示した後, 実データを用いたモデルの推定結果を報告し, 提案モデルの応用可能性について議論する. | |
キーワード:認知診断モデル、PINC モデル、補償モデル | |
▶ 一般研究論文 | |
テスト得点の段階表示に伴う「情報の減少」について | |
前川眞一、大津起夫 | |
大学入試センター 調査室 | |
本稿では、大学入学共通テストに導入が決定している得点の段階表示に関して、その利用により素点と比較してどの程度の情報のロスが生じるかを精査した。方法としては、古典的テスト理論の枠組みで、段階表示された得点を元にその真値を推定する場合の真値の推定の標準誤差を導き、それと通常用いられる素点を用いた真値の推定値に付随する推定の標準誤差を比較検討した。その結果、テストの信頼性係数が極めて高い場合には段階得点を用いることにより標準誤差は増加する(情報量は減少する)が、信頼性係数がそれ程高くない場合には、情報のロスは小さいことが判明した。また、この理論的結果と同等の結果が数値実験でも得られることを示した。 | |
キーワード:テスト得点、得点の段階表示、Stanine、古典的テスト理論、情報関数、標準誤差 | |
▶ 事例研究論文 | |
大学入学時の「言語運用力」および「数理分析力」試験の得点と入試区分 | |
椎名久美子、桜井裕仁、伊藤圭、荒井清佳、宮埜寿夫 | |
独立行政法人大学入試センター | |
AO 入試や推薦入試による大学志願者集団を想定した「言語運用力」および「数理分析力」試験に関して,モニター調査の実施大学の 1 つに着目して,受検者の入試区分による得点の違いを分析した.「言語運用力」および「数理分析力」試験は非教科・科目型の試験ではあるが,学力試験の比重が高い入試区分を経た入学者集団のほうが,言語運用力 得点も数理分析力得点も高得点寄りの分布を示す.これは,高校までの教科・科目の学習を基盤として培われた能力が 得点に反映されていることを示唆している.今回の分析対象では,言語運用力試験も数理分析力試験も,公募制推薦入 試による入学者が比較的高得点寄りの得点分布を示す点が特徴的である.公募制推薦入試では,国語と英語の基礎的な テストが課されており,志願者がテストを意識した学習を高校までに行ってきたことが,「言語運用力」および「数理 分析力」試験で測ろうとする能力の育成に繋がり,得点に反映されたと考えられる. | |
キーワード:「言語運用力」試験、「数理分析力」試験、妥当性、推薦入試、AO入試 | |
▶ 事例研究論文 | |
高大接続改革に対する高校側の意見とその変化――「受験生保護の大原則」の観点から―― | |
倉元直樹、宮本友弘、長濱裕幸 | |
東北大学 | |
かつてない大規模な制度変更が予定されていた2021 (令和3) 年度入試に際し,東北大学では2018 (平成30) 年度中に2度に渡って「予告」を公表した.意思決定に際し,前年度末に実施した高校調査の結果が結論を導くための貴重な根拠資料となった.それを受け,2022 (令和 4) 年度入試の参考とするため,改めて東北大学の基本方針に関する意見について調査を行った.本稿では主としてその結果の概要について報告する.特に文部科学省が導入延期を決めた英語民間試験については,2回の調査結果を比較してこの間の意見の異同を確認した.分析結果によると,高等学校側は東北大学の基本方針を強く支持していた.大学入試に関わる個別大学の権限と責任について,一石を投ずる結果となった. | |
キーワード:高大接続改革、受験生保護、高等学校、英語民間試験、東北大学の基本方針 |