日本テスト学会誌 Vol.10 No.1 要旨

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日本テスト学会誌 Vol.10 No.1

▶ 柳井晴夫理事長追悼企画  
追悼の辞 柳井先生を偲んで
繁桝算男
日本テスト学会 副理事長
▶ 柳井晴夫理事長追悼企画  
疫学研究への多変量解析の適用(東京大学医学部疫学教室時代の業績について)
西川浩昭
静岡県立大学看護学部
▶ 柳井晴夫理事長追悼企画  
多変量データ解析法を利用した心理テストの開発―柳井晴夫先生の教育心理学・心理学への貢献―
中村知靖
九州大学
柳井先生は様々な領域で数多くの業績を残しておられるが,本論文では,教育心理学ならびに心理学における貢献について,適性検査,性格検査,進路指導に焦点を絞り,多変量データ解析を駆使した研究について紹介する。さらに,先生の教育・研究に関わるエピソードも紹介し,追悼の意を表したい。
キーワード:適性検査,性格検査,進路指導,心理テスト,多変量データ解析
▶ 柳井晴夫理事長追悼企画  
柳井先生の統計学関連の著作について
前川眞一
東京工業大学 大学院社会理工学研究科
柳井晴夫先生が著された統計学関連の著書ならびに論文109 編を、そのタイトルに現れる専門用語を元に分類することを試みた結果、これらの著作は大きく 6 つのグループに分類されることをしめした。
キーワード:柳井晴夫、因子分析、主成分分析、多次元尺度法、テキスト・マイニング
▶ 柳井晴夫理事長追悼企画  
柳井晴夫先生の大学入試関連の研究を振り返って―大学入学者の資質と教科・科目別でない試験に関する研究を中心に―
椎名久美子
独立行政法人大学入試センター 研究開発部
柳井晴夫先生は,1986 年4 月から2006 年3 月まで大学入試センターに在職され,膨大な研究成果を遺された.そ れらをすべて網羅するのは困難であるが,本稿では,大学入学者の資質に関する研究と,教科・科目別でない試験に関する研究の2点に絞って,大学入試センター在職中の柳井先生の業績を振り返ってみたい.
キーワード:適応,資質,総合試験
▶ 柳井晴夫理事長追悼企画  
看護を測る―柳井晴夫先生の看護学への貢献―
奥 裕美、井部俊子
聖路加国際大学
柳井晴夫先生は35年の長きにわたり、看護研究の指導および、統計学の教育に携わり、看護学の発展に大きく貢献した。先生が初めて看護の記録物に登場したのは、昭和54(1979)年であり、「看護婦国家試験の現状と改善への展望」と題した座談会に「職業適性検査の専門家」として登場した。翌年からは聖路加看護大学大学院看護学研究科の非常勤講師、平成18(2004)年からは同研究科の特任教授となり、本格的に看護学に関わることとなった。大学院博士前期・後期課程での統計学の講義や指導のほか、看護基礎教育におけるCBTの開発に関する大型の研究を6年にわたって主導した。 また、柳井先生ほど常に深い愛情と熱意をもち、学生を指導した教員はいないと思えるほど、先生の指導は徹底していた。柳井先生のこれまでの看護への貢献に対する感謝の気持ちは言葉に表せないほど大きいが,先生のご功績の一部をここに著すことで,感謝の気持ちの一部をまとめたい。
キーワード:柳井晴夫先生,統計学,看護学
▶ 柳井晴夫理事長追悼企画  
惜別の辞 日本テスト学会理事長故柳井晴夫氏の業績を偲んで
池田 央
初代日本テスト学会理事長
▶ 一般研究論文  
18歳人口減少期のセンター試験の出願状況の年次推移と地域特性―志願者の2層構造化と出願行動の地域特徴―
内田照久、橋本貴充、鈴木規夫
独立行政法人 大学入試センター 研究開発部
近年,大学入試の改革に関わる議論が足早に進められている。中でも大きな役割を担うセンター試験は,四半世紀に及ぶ歴史の中,18 歳人口の減少や参加私立大学の増加といった,社会的な変化に揉まれてきた。本研究では,センター試験の利用方法の移り変わりを追うことで,その社会的役割や機能の変遷を捕捉し,望まれる改革のあり方を探る。まず受験出願動向の年次推移を分析し,志願者はどのように変わってきたのか,変わらない性質は何かを検討した。その結果,センター試験志願者の2 層構造化が見出された。経年的に安定した中核層と,試験の利用方法が多様な新参入層とが分離した。次に,都道府県別にセンター試験利用率や出願先の属性を分析したところ,地域ごとに固有の特徴的なパターン類型が見られ,センター試験の担う役割は地域ごとに異なることが浮き彫りとなった。さらに県別の18 歳人口の推移予測からは,地域特性や将来展望に即した個別方策の必要性が指摘された。
キーワード:大学入試センター試験,人口減少,試験制度,大学進学,人口予測
▶ 一般研究論文  
対応づけ得点のための信頼性指標の提案―対応づけ可能性分析への応用―
佐藤喜一1、柴山 直2
1新潟大学、2東北大学
本稿では,対応づけの実行可能性を検討するための指標の充実を図るため,対応づけ得点の測定の標準誤差と対応づけ得点の信頼性指数を提案した.提案指標は,テスト得点の分散,信頼性係数,相関係数といった基本的な統計量を用いて容易に推定できる.データ収集デザインが単一グループデザインの場合,試験結果の基本的な分析結果から提案指標をただちに推定できる.等価グループデザインの場合でも,テスト間の相関を予想できる場合は提案指標を利用可能である.さらに,実際の大規模テストの結果と提案指標を利用し,信頼性の観点から対応づけの実行可能性について検討した数値例を示した.それらの例を通し,提案指標が対応づけ得点の信頼性評価に役立つことや,対応づけの実行可能性について様々な示唆を与えてくれることを示した.
キーワード:対応づけの実行可能性,線形等化法,測定の標準誤差,信頼性指数,信頼性係数
▶ 一般研究論文  
潜在ランク理論に基づくコンピュータ適応型テストのアルゴリズム―新しいアルゴリズムの提案とシミュレーションによる評価―
秋山 實
東北大学大学院教育情報学教育部
本論文の目的は,潜在ランク理論に基づくコンピュータ適応型テストの新しいアルゴリズムを提案し,それらをモンテカルロシミュレーションによって評価することにある. 提案したアルゴリズムを用いた潜在ランク理論に基づくコンピュータ適応型テストの性能は,ランク数3 において50 アイテムのアイテムバンクを使用した場合の推定誤差は1.7%,40 アイテムのアイテムバンクを使用した場合の推定誤差は2.8%,30 アイテムのアイテムバンクを使用した場合の推定誤差は5.5%,20 アイテムのアイテムバンクを使用した場合の推定誤差は8.9%であった.このことは潜在ランク理論に基づくコンピュータ適応型テストが項目応答理論を適用できない小規模なサンプルデータを用いて構築したアイテムバンクを使って実用的なレベルで実行できることを示している.
キーワード:潜在ランク理論,コンピュータ適応型テスト,アルゴリズム,項目選択,能力推定
▶ 事例研究論文  
オーストラリア,イングランド,シンガポールを対象としたTIMSS2011調査の第8学年物理・化学領域におけるカリキュラムの被覆状況を関連付けたIRT分析
萩原康仁、松原憲治
国立教育政策研究所
第8学年の物理・化学領域において,国レベルのカリキュラムの被覆状況の異同と各認知的領域の相対的な得意不得意との関連性について検討した.調査言語が英語であるオーストラリア,イングランド,シンガポールの三カ国を対象 として,調査言語が異なることによる影響を統制した.特異項目機能が認められるかどうかについて,項目反応モデルを用いて分析した.その結果,物理・化学の応用領域において,シンガポールの生徒にとって自国のカリキュラムにのみ内容が含まれないとされた項目群では,能力特性の影響を統制した上で相対的に解き難くなるという傾向が見られた.また,物理の知識領域において,オーストラリアの生徒にとって自国の州のカリキュラムでのみ含まれないとされた項目群では,やや解き難くなるという傾向が見られた.これらの結果は先行研究と概ね整合的であり,この関連性が一定程度確かなものであることが示唆された.
キーワード:TIMSS2011調査,カリキュラムの被覆状況,項目反応理論,特異項目機能,第8学年の物理・化学
▶ 事例研究論文  
簡易適応型テストの測定精度に関する研究
熊谷龍一
東北大学
本研究では,熊谷ほか(2012)により提案された簡易型コンピュータ適応型テスト(simplified computerized adaptive test;SCAT)について,そこで算出される得点の特徴および測定精度について検討を行った.検討に際して,Raschモデルを利用したコンピュータ・シミュレーションを利用した. シミュレーションの結果,1)SCAT 得点がその両極に行くほど中央値方向へのバイアスが生じること,2)バイアスの影響からSCAT 得点の両極ほど標準誤差が小さくなること,3)項目固定型テストと比較すると相対的に標準誤差が小さくなること,が示された.
キーワード:コンピュータ適応型テスト,CAT,測定精度,Raschモデル
▶ 事例研究論文  
東北大学工学部AO 入試受験者にみる大学入試広報―その意義と発信型,対面型広報の効果―
倉元直樹、泉 毅
東北大学
現在,我が国の大学において,大学入試広報活動は欠かせないものとなっている.入試広報は受験生への大学情報の提供を目的として始まったが,少子化の中,今は学生募集の意味合いが強くなっている.入試広報活動に関する研究は国立大学を中心に2000 年代に入ってから活発化している.中でも,入試広報の効果を探る研究が必要とされている様子がうかがえる.本研究では,東北大学工学部が10 年以上にわたって実施されてきたAO 入試Ⅱ期受験生を対象としたアンケートから,入試広報活動の効果に関わる項目について分析した.その結果,発信型広報の効果には受験生の出身地の地域差は見られなかった.対面型広報は東北地方出身の受験生の活用度が高かった.いずれも,年を追うごとに参考にする度合いが高くなる傾向が見られた.拡大する入試広報活動には限界や弊害も指摘されているが,大学志願者の進路選択への役割が大きくなっていることが示唆された.
キーワード:入試広報,進路選択,学生募集,対面型広報,発信型広報