大会発表論文抄録集

目次


公開シンポジウム:「テスト項目の著作権及び問題公開/非公開を巡る問題」

 公的なテストの運営において、テスト項目の著作権はさまざまなところで問題になる。1 つは、 素材文に対する著作権処理であり、もう1 つは、テスト問題冊子の問題公開/非公開を巡る議論で ある。従来、テスト学会ではあまり扱われてこなかったこの問題に、九州大学法学研究院教授で知 的財産法を専門とする小島立氏を基調講演にお迎えして公開シンポジウムを実施する。まず、企画 者の木村から、米国 ETS と教育産業の間で起こった裁判事例、日本におけるテスト問題冊子の問 題公開/非公開に関する判決事例などを紹介した上で、基調講演として、小島教授にテスト項目に 関する著作権の問題について、法律家の観点から整理いただく。続いて、若林昌子氏から、論文賞 を受賞された「日本におけるわが国の公的試験における試験問題公開の判断基準―情報公開制度に おける事例―」を振り返っていただいた上で、その後の状況や所感をご披露いただく。また、寺尾 尚大氏から、この問題に関係する、項目反応理論によるテスト等化における項目パラメータドリフ トの問題について先行研究事例を含めてご紹介いただく。以上、法律家及び様々なテスト関係者の 観点から、テスト項目の著作権及び問題公開/非公開を巡る問題を学際的に考えていく。 

開催日程:2022年9月4日(日)9:00〜11:30

開催方法:リアルタイム配信(Zoomウェビナー)

企画・趣旨説明:木村 拓也(九州大学/大学入試センター)

司会:林 篤裕(名古屋工業大学)

基調講演者:小島 立(九州大学)

話題提供者

  1. 若林 昌子(一般財団法人 知的財産研究教育財団)

  2. 寺尾 尚大(大学入試センター)

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研究委員会企画シンポジウム:「学力テストの本質を改めて見直す:伝統の継承と発展」

 GIGA スクール構想に基づく学校 ICT 環境の整備が急速に進む中、CBT や学習ログを活用した 学習評価が期待されるなど、学習評価の方法についても革新が進められている。また、多様な評価方 法の例としてパフォーマンス評価やポートフォリオ評価が挙げられることが多く、伝統的な筆記型 の学力テストは、ともすれば「古い」ものと受け取られてしまいがちである。しかし、深い理解や思 考力等を評価するために、筆記型の学力テストも発展を遂げてきた。また、初等中等教育の学校現場 では現在も、筆記型の学力テストが中心的に行われている。 こうした背景から本企画では、新しい 学習指導要領が、小学校で2020 年度、中学校で2021 年度から全面実施、高等学校では2022 年度 入学生から年次進行で実施されることを踏まえ、新学習指導要領で示された「育成すべき資質・能 力」を筆記による学力テストで評価するために、どのような工夫がなされているのかについて、全国 学力・学習状況調査、大学入学共通テスト、標準学力テストの開発に関わる国内の実務家・研究者に 話題提供をしていただく。

開催日程:2022年9月4日(日)12:20〜14:20

開催方法:リアルタイム配信(Zoomウェビナー)

企画:研究委員会

司会:鈴木 雅之(横浜国立大学)

話題提供者:

  1. 小野 賢志(大学入試センター)

  2. 根木 厚(東京書籍株式会社)

  3. 納富 涼子(応用教育研究所)

指定討論者:石井 秀宗(名古屋大学)

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実行委員会企画シンポジウム:「テスト学におけるオープンサイエンス」

 オープンサイエンスとは,コンピュータネットワークを活用して研究成果をオープンに 共有し,研究を効率よく発展させようとする試みである。近年,実証的研究を行っている 学問領域において,研究結果の再現性の低さや疑わしい研究実践(QRPs; Questionable Research Practices)が問題となっており,その解決策の一つとして研究におけるオープ ンサイエンスへの対応がある。本学会においても,日本テスト学会誌にオープンサイエン ス・バッジが導入され,オープンサイエンスへの対応が進んでいる。しかしながら,他方 でテスト学においてオープンサイエンスが十分に活用されているとはいえない現状もあ る。そこで,テスト学におけるオープンサイエンスの活性化を促すため,本シンポジウム の企画を行った。シンポジウムでは,オープンサイエンスを積極的に研究活動に取り入れ ている研究者をお招きし,実践例を含めた話題を提供いただく。まず,岡田謙介先生か ら,日本テスト学会誌・編集出版委員会委員長として日本テスト学会誌へのオープンサイ エンス・バッジの導入した経緯や目的などについてお話しいただく。続いて,基礎心理学 においてオープンサイエンスの導入に積極的である山田祐樹先生から事前登録(プレレジ ストレーション)の利点と課題についてお話しいただく。また,臨床心理学の領域におい てオープンサイエンスの導入に積極的である国里愛彦先生からオープンデータ・オープン マテリアルの活用と課題についてお話しいただく。最後に,テスト学におけるオープンサ イエンスへの対応に関わる課題や今後の方向性について議論を行う。

開催日程:2022年9月4日(日)14:30〜16:10

開催方法:リアルタイム配信(Zoomウェビナー)

企画:第20回大会実行委員会

司会:中村 知靖(九州大学)

話題提供者:

  1. 岡田 謙介(東京大学)

  2. 山田 祐樹(九州大学)

  3. 国里 愛彦(専修大学)

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企画セッション:「共通テスト得点調整の仕組み」

企画の目的
 共通テストでは、地歴・公民・理科②において、20 点差以上の平均点差が生じたとき、また、そ の平均点差が科目の難易差に基づくと判断されたとき、得点調整が行われ、平均点差を15 点差まで 縮小する。本セッションでは、意外と知られていないであろう得点調整方法の実施条件と方法につ いて解説するとともに、今後の共通テストにおいて直面したときに生じうる問題点と改良点を、さ らには各個別大学や他の試験における選抜について議論を深めたい。

開催日時:9月4日(日) 16:20〜18:00

開催方法:リアルタイム配信(Zoomウェビナー)

企画者:荘島 宏二郎(大学入試センター)

司会:宮澤 芳光(大学入試センター)

導入:「現行の得点調整方法」 宮澤 芳光(大学入試センター)

話題提供

  1. 「完全情報量最尤法を用いた周辺平均推定」 荘島 宏二郎(大学入試センター)
  2. 「ランダムフォレストを用いた欠損補完による得点調整」 石岡 恒憲(大学入試センター)
  3. 「加算モデルによる分析」 前川眞一(大学入試センター)
  4. 「スタナインで科目差を見てみよう」 橋本 貴充(大学入試センター)
  5. 「令和7年度以降の大学入学共通テストの得点調整対象科目について」 小野 賢志(大学入試センター)

指定討論者 :水田 正弘(統計数理研究所)

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一般研究発表

一般セッション 1「テストの開発と評価」

  1. 『Explainable Learners’ Knowledge Diagnosis by Incorporating Learner and Domain Modeling in Intelligent Tutoring Systems』
    Wenbin Gan(情報通信研究機構), Yuan Sun(国立情報学研究所)
    One of the fundamental tasks when providing personalized tutoring services to learners in online learning systems, such as intelligent tutoring systems and massive open online courses, is the learner knowledge diagnosis (LKD). LKD obtains the learner knowledge proficiency on skills by modeling their learning performance. Learners’ knowledge construction process is not static, but evolves overtime; hence, the evolution of learners’ knowledge proficiency must be dynamically traced. Moreover, considering the wide usage of online learning systems by large numbers of learners, the LKD task also needs to meet the requirements of large-scale assessment and interpretability to explain the diagnosed results. The existing models are either designed for static scenarios or find it difficult to explain the causality between learner performance and knowledge proficiency, as well as the item characteristics. To solve these issues, we propose herein a novel model, called the knowledge interaction-enhanced dynamic LKD (KIEDLKD), to develop learner performance, and hence, dynamically diagnose and trace the evolution of each learner’s knowledge proficiency during the exercising activities. We first propose a dynamic LKD framework by unifying the strength of the memory capacity of the key-value memory network to enhance the representation of the knowledge state during learner performance modeling and the interpretability of the Item Response Theory (IRT) to explain the learner performance in terms of knowledge proficiency and item characteristics (i.e., item difficulty and discrimination). In this framework, we diagnose and trace each learner’s knowledge proficiency on each knowledge concept (KC) over time and store them into an auxiliary memory using the key-value memory network. We further infer their general proficiencies and the IRT-based item characteristics using another neural network. Moreover, we propose the knowledge interaction concept among KCs and incorporate it into the LKD procedure to further exploit the long-term dependencies in the exercising sequences, thereby devising the KIEDLKD model. We also incorporate the learner-oriented cognitive item difficulty into our model, based on each learner’s exercising history, to adaptively model the item difficulty. Based on these factors, our KIEDLKD model can not only output the learners’ knowledge proficiency in a multi-granularity manner but also output the item characteristics, making it possible to interpret the learner performances in terms of their current knowledge states and item characteristics. Extensive experiments are conducted from six perspectives on five real-world datasets to test our model.The results of learner performance prediction demonstrate the superiority of our model on the LKD task. It can also automatically discover the underlying interaction between each pair of latent KCs, and the underlying concepts for each exercise. The ablation study verifies the contributions of each component in our model. Moreover, it can depict the evolution of learner knowledge proficiency in a multi-granularity manner and provide additional information for skill domain analysis, which enables the interpretability of our model. 
    キーワード:Learner’s Knowledge Assessment, Learner Modeling, Domain Modeling, Intelligent Tutoring System
  2. 『語彙理解尺度項目作成ガイドラインの有効性の検討』
    堂下 雄輝(ベネッセ教育総合研究所),渡邊 智也(ベネッセ教育総合研究所)
    テストの品質に悪影響を与える欠陥項目の使用を避けるため、作問者が準拠すべき一般的規準である「項目作成ガイドライン」が提案されている。堂下・渡邊(2021)は、実テストに具体的にガイドラインを適用する際、そのテストの目的やフレームワークによって欠陥の様態がそれぞれ異なる可能性があることから、語彙理解尺度版の「項目作成ガイドライン」を作成した。本発表では、そのガイドラインに対する語彙項目の準拠・非準拠を実験操作し得られた、項目正答率・識別力(IT相関)、トレースライン、アンケートによる受検者の内観報告等のデータに基づき、ガイドラインの有効性を検討する。
    キーワード:多枝選択式,項目作成ガイドライン,語彙理解尺度
  3. 『教科横断的に育成される思考力の総括的アセスメント項目の作成とその評価 』
    渡邊 智也(ベネッセ教育総合研究所) ,小野塚 若菜(ベネッセ教育総合研究所),野澤 雄樹(ベネッセ教育総合研究所)
    平成29年告示の学習指導要領の要諦のひとつである「思考力・判断力・表現力等」(以下,思考力とする)の育成は,各教科等のみならず,教科横断的に身につけていく力とを相互に関連付けながら行う必要があるとされている。本研究は,教科共通の「思考スキル」という理論的枠組みを用いて具体化した思考力の目標に対し,その達成状況を把握するための総括的アセスメントの問題項目の試作版について報告する。本アセスメントの対象である中学生の解答時の発話プロトコルデータから,項目の妥当性の証拠および項目改善の証拠の収集を試みた。
    キーワード:思考力,学習指導要領,アセスメント項目開発,発話プロトコルデータ
  4. 『ストレスチェックは何を測るのか』
    奥村 太一(滋賀大学) , 宮下 敏恵(上越教育大学),森 慶輔(足利大学),増井 晃(栃木県立岡本台病院),北島 正人(秋田大学),西村 昭徳(東京成徳大学)
    現在、多くの事業所において労働安全衛生法に基づくストレスチェックが行われている。これに広く用いられているのが厚生労働省の推奨する「職業性ストレス簡易調査票」である。これは自己報告式の質問票で、「仕事のストレス要因」「心身のストレス反応」「周囲のサポート」の各尺度について「高ストレス者」の判定を行うためのカットオフ基準が提案されている。本研究は、新任教師にこれらのストレスチェック尺度を1年間継続的に実施したデータをもとに、ストレス状態を測る尺度としての品質を評価しようとするものである。
    キーワード:ストレスチェック, 一般化可能性理論, 縦断調査
  5. 『心理尺度作成ガイドラインの開発―尺度作成の流れを踏まえての検討―』
    坪田 彩乃(名古屋大学) ,石井 秀宗(名古屋大学) , 荒井 清佳(大学入試センター),安永 和央(IPU・環太平洋大学),寺尾 尚大(大学入試センター)
    心理学の研究において,構成概念を測定するために心理尺度は欠かせないものである。既存の心理尺度を用いることも多いが,適切な尺度が存在しなかったり,日本語版が発表されていない場合など,新たに開発することが求められることもある。\n新たに心理尺度を作成する際には,実施までに多くのプロセスが必要となる。尺度作成方法については様々な書籍で取り上げられているものの,検討すべき事項が多岐に渡るため,それらを網羅的かつ簡潔に確認可能とすることが望ましい。つまり,心理尺度を作成する際に検討するべきガイドラインが開発され,周知されることが期待される。\n本発表では尺度作成をする際の流れに則り,取り扱う構成概念についての検討から,心理尺度の形式や質問項目の作成,作成後に検討すべきことまでについてのガイドラインを開発することを目的とした。
    キーワード:ガイドライン,心理尺度作成

一般セッション 2「テスト実施(1)」

  1. 『多次元項目反応理論を組み込んだ深層学習モデルに基づく小論文の観点別自動採点手法』
    柴田 拓海(電気通信大学大学院),宇都 雅輝(電気通信大学大学院)
    近年,深層学習を用いた小論文自動採点手法として,全体得点と複数の評価観点に対応する細目得点を同時に予測する手法が提案されている.しかし従来手法は,評価観点ごとに複雑なニューラルネットワーク層を持つため,得点予測の根拠について解釈性が低いという問題があった.この問題を解決するために,本研究では多次元項目反応理論を組み込むことで予測根拠の解釈性を高めた複数観点同時自動採点手法を提案する.
    キーワード:記述・論述試験,自動採点,深層学習,多次元項目反応理論,説明可能性
  2. 『機械学習におけるアクティブラーニングを用いた学習データ選定による 自動採点システムの精度向上 —』
    麻坂 順風(千葉大学) , 岡 知樹(株式会社リクルート),森 康久仁(千葉大学) , 石岡 恒憲(大学入試センター),須鎗 弘樹(千葉大学)
    短答式記述問題における自動採点の研究では,人の手で採点する答案が多い程,自動採点精度が高くなることが知られている.しかし,実際の採点には,人件費や時間といったコストが大きくかかってしまう.そのため,自動採点精度を高く維持しつつ,人の手で採点する答案を減らすことが望まれている.本研究では,アクティブラーニングを用いることで,人の手で採点する答案を選択する.結果として,最悪の場合でも,約1割の答案を採点するだけで,ランダムに8割の答案を採点した場合の精度と同精度を出すことができた.
    キーワード:自動採点,採点支援,アクティブラーニング
  3. 『CBT 英語リスニング問題における動画・音声の提示方法が 困難度・識別力・解答時間に及ぼす影響』
    寺尾 尚大(大学入試センター)
    ア本研究は,CBT英語リスニング問題における動画・音声の提示方法が,項目困難度・項目識別力・解答時間に及ぼす影響について検討することを目的とする。通常動画条件・静止画コマ送り動画条件・音声のみ条件の3条件を設定し,高校生219名の解答データを分析対象とした。困難度構造,識別力構造の異なる計12の一般化多相ラッシュモデルを比較し,困難度・識別力ともに項目と提示刺激の主効果項のみで説明するモデルを基に解釈した結果,困難度は条件間で異ならなかったが,識別力は通常動画条件で他の2条件よりも低いことが示された。また,解答時間は条件間で大きく異ならなかったことも明らかとなった。
    キーワード:Computer Based Testing, 項目作成, 妥当性
  4. 『GAN で合成した顔画像を用いた場合の目視による検出の検証』
    山本 詩歩(成蹊大学大学院) ,吉川 紘史(成蹊大学大学院),平良 玲緒奈(成蹊大学),安田 晶子(一橋大学),小方 博之(成蹊大学)
    近年、試験における替え玉受験による不正行為の手段は巧妙化している。そのなかで、合成写真を使用した手口がある。昨今は新型コロナウイルス感染拡大の影響で教室や会場に集合して実施する資格試験や検定試験の中止が相次ぎ、自宅などで受験できるオンライン試験への移行が増加傾向にある。本研究では、合成顔画像との比較に受験を模擬した動画を使 用し、オンライン試験における証明写真を用いた本人確認と同等とみなせる条件下での本 人確認実験を行う。そして、生成された合成顔画像が替え玉受験でどの程度通用するのかを検証することを目的とする。
    キーワード:不正行為検出、顔写真照合、StyleGAN

一般セッション 3「テスト実施(2)」

  1. 『簡易適応型テストにおける難易度段階数と難易度誤判定率に関する研究』
    熊谷 龍一(東北大学)
    簡易適応型テスト(熊谷ほか,2013)では,問題項目を難易度ごとに5段階程度に分類することが必要であるが,この際には評定者による判定などが行われる。この時,難易度の段階数を多くすることで測定精度の向上が見込まれるが,対して難易度の段階判定を間違う可能性が高くなることが想定される。本研究では人間による難易度評定の誤判定率を考慮したシミュレーション研究により,測定精度における段階数増加と誤判定のトレードオフ効果を検証し,簡易適応型テストではどの程度の段階数が適当であるかの示唆を得ることを目的とする。
    キーワード:簡易適応型テスト, 評定者, CAT
  2. 『評価者特性ドリフトを検出する時系列型ベイズ多相ラッシュモデル』
    宇都 雅輝(電気通信大学),林 真由(電気通信大学)
    人間の評価者が採点を行うパフォーマンス評価では,採点結果が個別の評価者の厳しさに依存してしまう問題がある.この問題を解決する手法の一つとして,評価者の厳しさの影響を考慮して受検者の能力を推定できる項目反応モデルが提案されてきたが,既存モデルの多くは評価者の厳しさが採点過程で変化しないと仮定している.しかし,この仮定は長時間に渡って採点作業を行う場合には成り立たないことがある.そこで本研究では,そのような評価者の厳しさの時間変化を高精度に推定できる時系列型ベイズ項目反応モデルを提案する.
    キーワード:項目反応理論,評価者バイアス,評価者特性ドリフト,ベイジアンモデリング
  3. 『難易度調節可能な読解問題自動生成のための深層学習手法』
    鈴木 彩香(電気通信大学大学院),宇都 雅輝(電気通信大学大学院)
    近年,任意の長文に関連する読解問題を深層学習を用いて自動生成する読解問題自動生成手法が注目されている.最先端手法では,与えられた長文と整合性がある自然な問題文を生成できるが,生成される問題の難易度は考慮できなかった.そこで本研究では,任意の難易度の読解問題を自動生成する手法を開発する.具体的には,Transformerベースの事前学習済み深層学習モデルを用いた読解問題自動生成手法に対して,項目反応理論を利用して推定される問題難易度を組み込んだ入力データを与えることで,所望の難易度に合わせた問題を生成できる技術を提案する.
    キーワード:読解問題,問題生成,深層学習,言語モデル,項目反応理論,言語生成
  4. 『等質テスト構成の並列化技術を用いた2 段階等質適応型テスト』
    宮澤 芳光(大学入試センター),渕本 壱真(電気通信大学),植野 真臣(電気通信大学)
    CBT(Computer based testing)では,高精度な試験を実現させるために適応型テストと呼ばれるテスト出題方式が知られている。しかし,適応型テストは,同一の受検者が複数回受験した場合には,同一の項目群が出題される傾向があり,実際に適応型テストを導入するときに重大な問題になりうる。これらの問題を解決するため,項目選択に制約を付けた適応型テストが提案されている。しかし,暴露数の減少と測定精度の向上にはトレードオフの関係があることが指摘されている。筆者らは,等質テスト構成技術を用いた2段階等質適応型テストを提案してきた。一方,近年,並列化技術を用いて大規模な数の等質テスト構成が実現できた。本稿では,等質テスト構成の並列化技術を用いた2段階等質適応型テストの実験結果を報告する。
    キーワード:適応型テスト, 等質テスト構成, Computer Based Testing, eテスティング
  5. 『自己報告式テスト反応からの多肢選択式テスト反応の予測』
    江原 遥(東京学芸大学)
    外国語の語彙テスト等においては、できる限り多い項目数をテストしたい場合があるが、多くの項目について多肢選択式の作問・回答をすることは労力がかかる。自己報告式テストは、被験者が提示されたリスト内の語を知っているか単純に報告する形式であり、作問・回答の労力が大幅に削減できる。Low-stakesな設定では自己報告式を用いたい場合があるが多肢選択式との比較が難しい。本研究では、英語の語彙テストを題材に、同一被験者・同一の語彙に対して自己報告式と多肢選択式の両方の試験を受けてもらったデータセットを作成した。自己報告式テスト反応から多肢選択式テスト反応を予測する実験を行い、自己報告式テストの項目困難度を多肢選択式の項目困難度と読み替えると予測精度が大きく低下することを確認した。また、深層転移学習の代表的な手法であるBERTを用いた実験の結果、多肢選択式の設問中の少量の文脈であっても多肢選択式反応の予測に統計的有意に貢献することを確認した。
    キーワード:語彙テスト,自己報告式テスト,深層転移学習

一般セッション 4「テスト分析と波及効果」

  1. 『大学生の学業先延ばしと達成動機』
    朱 力行(東北大学大学院),倉元 直樹(東北大学)
    学習課題を進める上で先延ばしにしてしまう大学生が多くいる。効率が求められる昨今、所定の期限内に予期される学業目標を実現できない学習課題先延ばし行為は本人の不利益になる。そのため、先延ばしの防止は重要だが、先延ばし行為の発生メカニズムを明らかにすることが先決である。本稿の目的は、達成動機、セルフコントロール、学業先延ばしの三つの変数間の関係を調査し、学業先延ばしに影響を与える原因パターンを明らかにすることである。
    キーワード:学業先延ばし,達成動機,セルフコントロール
  2. 『高校生の大学選択行動に対するCOVID-19 の影響―進路決定要因を中心に―』
    林 如玉(東北大学大学院),倉元 直樹(東北大学)
    本研究では,質問紙を用いて2020年度におけるCOVID-19の感染拡大以前とCOVID-19禍における高校生の大学選択における進路決定要因の比較分析を行った。その結果,COVID-19前後で進路決定要因としての「大学の内容」「大学の環境」「大学の費用」の3因子は同一の構造であった。COVID-19の影響は「大学の環境」以外の2因子で見られた。「大学の内容」について,2年生の大学選択は「安全志向」から「挑戦志向」にシフトした。その一方で,「大学の費用」について,学年を問わず,COVID-19禍の生徒の大学選択はより「安全志向」となる傾向が見られた。
    キーワード:COVID-19,高校生,大学選択,進路決定要因
  3. 『数学基礎力テストにおける文科系学生と理科系学生の分析』
    佐々木 淳(下関市立大学)
    内閣府の統合イノベーション戦略推進会議(第11回)のAI戦略2022で、文理を問わず、全ての大学が、課程にて初級レベルの数理・データサイエンス・AIの習得を目標としている。しかし、上記を支える数学の素養は、文理で同じではない。そこで本研究の目的は、大学において学生にあった数理・データサイエンス・AI教育を実施するために、高卒時の学生の数学における基礎的な能力を把握することである。実施した数学基礎力テストを、文科系・理科系・文理混合に分け、古典的テスト理論と項目反応理論により分析した結果を報告する。
    キーワード:数学,高等学校,高大接続,IRT
  4. 『理解の深さの定量的評価とそのつまずきに応じた学習方略指導 ―認知診断モデルの実践的活用と生徒の反応―』
    佐宗 駿(東京大学),岡 元紀(東京大学),柴 里実(東京大学),植阪 友理(東京大学)
    近年の国際的な教育動向において,深い理解の涵養と学び方の工夫の重要性は論を俟たない。深い理解の要素ごとの習得状況を定量的に評価し,つまずきに応じた学習方略の指導ができれば,効果的な学習改善につながるだろう。しかし,どのように理解の深さを定量的に捉えれば良いのだろうか。本研究では,認知診断モデルという数理モデルを援用し理解の深さを定量的に評価し,その結果を学習改善に活用した実践を行った。具体的には,中学1年生87名を対象に,(1)理解の深さを診断するテストを開発・実施(2)理解の深さの診断結果のフィードバック(3)診断結果に応じた学習方略の実施という3段階からなる実践的枠組みを提案し,取り組んだ。その結果,学習者の反応として,学習改善に有用であるなどの肯定的な記述が多く得られた。
    キーワード:深い理解,認知診断モデル,学習法講座
  5. 『検査主体の求める人物像に合わせた尺度の個別設定を行う際のAHP の整合性改善の試み』
    佐々木 研一(早稲田大学)
    日本企業の社員採用時に様々な適性検査が用いられる.その適性検査において,心理学の特定の理論に基づく複数の尺度に対し,AHPを用い,検査を実施する主体(以下,検査主体)が求める人物像に合わせて,尺度に重みづけしてテスト得点を構成する方法を佐々木らが提案している. Saatyは一対比較によって得られる一対比較行列の整合性の尺度としてC.I値(整合度)を定義しており,0.15であれば整合性に問題が無いとしているが,検査主体が求める人物像の一対比較行列を取得したところ,C.I値が0.15を上回り整合性に問題があった.本研究では、検査主体が求める人物像の一対比較行列の整合性を改善する方法について報告する.
    キーワード:適性検査, Analytic Hierarchy Process,整合性,一対比較法

一般セッション 5「大学入試」

  1. 『外国人留学生入試のクラスター分析』

    呉 欽鵬(名古屋大学院),石井 秀宗(名古屋大学)

    本研究は外国人留学生を対象とした大学入試特別選考において,選考の手続きや方法を明言していない現状,およびこの現状に伴う入試選考の不透明さが一つ深刻な問題として提起した。入試選考の一環である EJU 得点と大学の合否関係について検討した。各留学生の EJU 得点を説明変数,大学入試選考の合否結果を目的変数に設定し,ロジスティックス回帰モデルを構築した。また,構築されたモデルに対し,McFadden の擬似説明率を用いてモデルの適合度を評価した。McFadden の擬似説明率の類似度から,階層的クラスター分析の手法を用いて,大学をいくつかの近い傾向を持つグループに分類した。本研究の結果は,これから外国人留学生が EJU 得点を使用して自分の学力を評価する際,あるいは志望大学を選択する際, より客観的な評価指標を提供できることが 期待される。
    キーワード:留学生大学入試,日本留学試験,大学評価
  2. 『東北大学農学部における令和3年度AO入試Ⅱ期の検証』
    倉元 直樹(東北大学),片山 知史(東北大学)
    東北大学農学部では平成13年度入試からセンター試験(当時)を課さない「推薦入学Ⅰ」を導入した。それを平成25年度入試からは「AO入試Ⅱ期」に切り替えて現在に至っている。入試制度の見直しの際には入試データや教務データの分析を行い,それに基づいて具体的な検討を行ってきた。令和3年度入試においては,主としてAO入試Ⅱ期の面接試験の実施方法について入試データの検討を行った。その結果,配点等については問題は見つからなかったが,面接試験の内容や評価基準については,整備を行う必要性が見出された。
    キーワード:大学入試,農学部,総合型選抜
  3. 『受験票顔写真に合成画像を用いた場合に対するAIモデルによる本人確認能力の評価』
    赤坂 航(成蹊大学),小方 博之(成蹊大学)
    近年、試験における替え玉受験の手法の一つに正規受験者と替え玉受験者の顔画像を合成した証明写真を使用するものがある。この合成写真が精巧であると本人確認を突破される危険性があり、高い攻撃性があるといえる。先行研究ではStyleGANで合成した顔画像は目視による本人認証において高い攻撃性があることを発見した。この研究では男女それぞれ20名の日本人の顔画像をStyleGAN2によって合成を行う。その合成顔画像をFaceNetによって変換された特徴ベクトルからOne-classSVMや画像からdlib、Spherefaceを用いて本人認証精度の確認を行った。
    キーワード:顔照合,本人確認,替え玉受験,人工知能
  4. 『大学入試面接試験における自己評定と他者評定の差異に関する検討』
    森 一将(文教大学),橋本 貴充(大学入試センター),大江 朋子(帝京大学)
    本研究では、大学入試の面接試験における受験者の評定(自己評定)と審査員の評定(他者評定)の違いを明らかにすると共にこれら2つの評定の差異に影響を与える要因について検討を行い、効果的な面接訓練法について提案を試みる。具体的には、私立大学文系学部の大学1年生を対象にしてオンライン上から録画形式で典型的な大学入試の面接試験における設問(志望動機、大学での意気込み)について回答させた後、その動画を視聴させ自己評定させた。(1回目の自己評価)その後動画は再度大学教員により評定された(他者評価)のち、受験者にフィードバックされ、確認後再度自己評定をさせた。(2回目の自己評定)したがって、自己評定は2回、他者評定は1回行われたわけだが、本研究ではこれらの自己評定と他者評定の差異を明らかにし、効果的な面接訓練の方法について検討を行う。
    キーワード:大学入試, 面接試験, AO入試, 自己評定
  5. 『大学入学者選抜試験における「入試ミス」の検討―入試ミスの種類・発見者・合否への影響に着目して―』
    安永 和央(IPU・環太平洋大学)
    本研究では,2019年1月1日から2019年12月31日までの大学入試ミスに関する記事を集めて,入試ミスの種類と発見者について検討した。「ミスの種類」は,「正答が複数ある」,「正答がない・解答ができない」,「設問や選択肢に誤字がある」,「出題に関するミス」,「監督者のミス」,「採点に関するミス」,「その他」に分類された。「発見者」は,採点前の内部点検や教員が採点中に気づくといった「大学内部の人による発見」と,予備校等の外部機関による点検や受験生・高校からの指摘といった「大学外部の人による発見」に分けられた。
    キーワード:大学入学者選抜試験,入試ミスの種類,発見者

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