ご挨拶
新型コロナウイルスがもたらす深刻な影響は2021年4月の段階において、まだどのように収束するのか予測できません。テスト学会大会もその影響をもろに受け、昨年度、桜美林大学で計画されていた第18回大会は中止のやむなきに至りました。また、今年度も当初は、桜美林大学での開催の実現を目指しましたが、最終的にはオンライン大会とすることが決まりました。
新型コロナにどう対処するかについて様々な意見が飛び交いましたが、マスコミをにぎわす議論には、テストに関する専門的知識に基盤を持たない議論があるように見受けられます。たとえば、PCR検査や抗体検査の精度を知らせる指標は、感染者を正しく陽性と診断する率を感度、感染していないものを正しく陰性と判断する率を特異度といいますが、その評価値が周知されていないようです。また、陽性と診断されたアスリートが再検査をすると陰性だったこともニュースになりました。このような問題は、信頼性や妥当性の問題と関連しており、テスト理論の観点から議論し、発言すべきであると思います。また、PCR検査や抗体検査をどのような目的において実施するのが適切であるかを論じることも妥当性に関する議論の範疇にあります。
コロナ禍は大学入試、公務員試験などの公的な試験、また、企業の採用試験においても、リモート試験が必要だという認識を高めました。テスト学会の会員にとっては、コロナ禍にかかわらず、CBTやIBTが必要であるという認識を共有していることと思いますが、テスト学会には、それらのテスティングの技術の質を高め、広く提供していくことに貢献することが求められるでしょう。
本大会のメインテーマは、「社会の期待に応えるテスト学」です。コロナ禍がもたらす問題を解決することを含む、現代社会が抱える課題を解決するための理論的積み重ねと実際的解決法を目指す大会としたいと思います。本大会では、2つのシンポジウムが企画されています。1つ目は、公開シンポジウムを南風原理事長自らが企画されています。大学入試も共通テスト導入に伴い大きな変化がありました。特に、英語に関する入試は混乱いたしました。このことについて、多角的に検討するシンポジウムです。このシンポジウムは関心を持つ方が多いことを考慮し、公開されます。2つ目は、研究委員会が企画するテスティングの安全な運用や維持に関するシンポジウムです。これら2つのシンポジウムはリアルタイムで、9月25日に開催されます。社会の抱える問題の解決にはテスト学が持つ知識が正しく伝えられることが必要です。このことを念頭に、実行委員会企画として、会期中の10日間、参加者が自由に視聴できる8つの録画講演を企画しました。これらの録画講演は、テスティングに関する基本の知識から始まり、わかりやすいことを心がけます。先端的な研究の将来にも言及されるので、難解な点もあるかもしれません。しかし、参加者のそれぞれが、必要とされる部分を学ぶことで十分であり、難解な部分は当面割愛してもよいと考えます。
本大会はオンライン大会となりますが、実行委員会としては、オンラインの特徴を活かし、これまで、テスト学会と縁のなかった人たちにもご参加いただき、テスト学の必要性を認識していただくことを目指して、努力したいと考えています。ぜひ、テスト学会大会に参加していただくようお願い申し上げます。
日本テスト学会第19回大会実行委員長
繁桝 算男(慶応義塾大学)