第2回研究会

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第2回事例研究会報告

企画:野口裕之(名古屋大学)

この第2回事例研究会では「テストの国際化」というテーマの下に、渡辺直登先生(慶應義塾大学大学院教授)による『16PF(第5版)の国際共同開発とその応用』、そして、岩田昇先生(広島国際大学教授)による『CES-D抑うつ尺度の心理測定法的特性-国際比較の大きな障壁-』という2つのご報告をいただいた。
前者では、グローバル化時代の実務的・研究的ニーズに応えうるテストを国際共同開発する際に要求される「グローバル・スタンダード」について、性格検査のひとつである「16PF(第5版)」を例として具体的な開発手順を追って示された。この基準は研究者個人では条件を満たすことはかなり難しく、複数の研究者による共同研究あるいは企業との連携研究開発が必須の条件となると思われる。「社会的責任」ということが厳しく問われるようになった時代にあって、テストの開発過程の中でどのようなことをやっておかなければならないかが明示された。
後者では、国際比較研究を実施する際に問題となる測定尺度の項目等価性について、臨床心理尺度のひとつである「CES-D抑鬱尺度」による日米比較研究を例として、何も検討しない場合にどのような問題があるのか、具体的にどのような手順を用いて検討するのか(DIF検出の手順)が具体的に示された。また、国際比較だけでなく、わが国における世代間の違いの検出にも言及された。DIF分析は北米地域の大規模テスト機関においては必ず実施されているが、わが国では重要性が注目され始めたという段階である。ここでもテストの「社会的責任」にどのように応えなければならないのかが示されたと言える。
テストの「国際化」ということが「掛け声」のみが先行するのではなく、地道に何をしなければならないのか、そして、国際化の中で何が評価されるのかについて考えさせられ、テストは最終的には測定される個人のために有用な情報を提供できるものでなくてはならず、そのために日本テスト学会が目指すべき方向性のひとつが示されたものと思われる。特に、テストの技術論のみにとどまることなく、それを踏まえた上で、常に、テストがもたらす結果に対する社会的責任ということを日本テスト学会が忘れてはならないことを改めて認識させられた事例研究会であった。

報告内容(PDFファイル)
岩田 昇
広島国際大学臨床心理学科
CES-D抑うつ尺度の心理測定法的特性-国際比較の大きな障壁-
渡辺直登
慶應義塾大学大学院経営管理研究科
16PF(第5版)の国際共同開発とその応用